No. 87『 2011年3月26日未明 レストランから 』 

kneedrop22013-03-26

2011年3月26日未明
   レストランから 
    作詩:五十嵐精一
   

ガソリンを入れるのに朝から 
たくさんの車が並び
2時間待ちで2千円が上限でしか 
入れることが出来ない


給湯器が壊れ お風呂に入れない 
ガスが止まり 水も出ない
いつも何も感じなかった あたり前の暮らし 
感謝の気持ちが湧き起こる



被災したわが町 
すべては黒い水が呑み込んでいった
かけがえのない命だけが残った 
自分の命を守るだけで精一杯だった


夜 仕事が終わり 
お腹が減っていても 営業している店はない
ファーストフード店もやっていない
何か食べさせてくれる店も 
灯りが消えてやっていない


コンビニも夜は営業していない 
お弁当も売ってない 
食糧は何ひとつ残っていない


何ひとつ いつもと変わらない夜だけど 
舗道の灯りは消えている


パンが食べたいが売ってない 
セブンスターも売ってない



福島原子力発電所から放射能が漏れ始めた


赤ちゃんに飲ませる ミルクをつくる 
ミネラルウォーターも手に入らない


友人の安否が気に掛かる 余震が止まない


何ひとつ いつもと変わらない闇の中で
やっと あるレストランが 営業していた


レストランの中は深夜だが 混み合っていた
何ひとつ変わらないレストラン 
限定メニューが差し出された

 
いつも何も感じなかった 当たり前の暮らし
何ひとつ いつもと変わらない夜なのに 
感謝の念が湧き起こる

     
                           2011年作品




The Poetic Works of Seiichi Igarashi